【公開されました!】休眠預金等活用事業・総合評価(第2回)
ついにwebサイト上での公開となりました。
休眠預金が生み出した価値や役割を振り返る「休眠預金等活用事業・総合評価」。
ご依頼頂き、全編の執筆を担当したものです。
https://www.janpia.or.jp/hyouka/download/sougou_hyouka_02.pdf
■休眠預金とは
金融機関において、10年を超えて移動のなかった資金を意味する「休眠預金」。
日本では毎年1,000億円ほどが発生しています。
この資金を民間公益活動の促進に活用すべく、法律が制定されたのは2016年のこと。
諸々の準備期間を経て、実際の助成が始まったのは2019年。
そこから現在までに総額約280億円、1,000を超える団体に助成が行われています(2024年2月時点)。
■今回の総合評価について
今回の総合評価は、この休眠預金等活用事業の全体の成果を振り返ったものです。
個別の資金分配団体や実行団体について評価を行うものではなく、制度全体を俯瞰した視点から、どのような成果があったのか、分析を行っています。
この総合評価について、2023年度、JANPIAさんからご相談を頂きまして。
企画検討から執筆まで、お引き受けすることになりました。
■お引き受けするにあたり、考えていたこと(その1)
評価報告書の作成をご依頼頂いた際に、最初に思ったことは2つありました。
ひとつは、とても難しいご依頼だな、ということでした。
休眠預金は金額が飛びぬけて大きいことに加え、関わるステークホルダーの数も多岐にわたります。それはすなわち、そこに注がれる価値観も多様である、ということでもあります。
また何より難しいと感じたことは、頂いたご依頼が、「制度開始初年度にあたる2019年度からの振り返りだった」ということでした。
休眠預金事業は、ある種の「社会実験として」始まった制度だと言われています。
そうした中で、休眠預金等活用事業は文字通り「走りながら考えてきた」状況があったこと、その都度、その時できる最大限のこととして、制度や運用の見直しや改善が繰り返されてきた経緯を持ちます。
こうしたことから
「初期設定を所与のものとして、達成状況を測る」ことや
「断定調で切り取り、報告としてまとめる」ことは出来ないなと感じていました。
■お引き受けするにあたり、考えていたこと(その2)
もう一つ考えていたことは、「総合評価の報告書をまとめる」というプロセスを、組織と事業の改善にどう活かせるか?ということでした。
休眠預金は現在進行形で変化し動き続けている制度です。
制度を作っているのはそこに関わる「人」であり「組織」です。
こうしたことから、総合評価という「報告書」の質を担保しつつ、
- 作成するプロセスを通じて、JANPIAで働く一人ひとり(特にPOの皆さん)が学びを得ること
- それを通じて事業と組織が良くなること
- 結果として休眠預金という制度そのものが長い目で見てポジティブな変化を得ること
を自分としてのひとつの獲得目標としました。
■執筆にあたり意識していたこと
次に執筆にあたって意識していたこと、です。
今回頂いたご依頼の「総合評価」は、私が第三者的に客観的に断じる類の報告書ではなく、あくまでも「JANPIAとして、これまでの成果を振り返る」という位置づけにあります。
また総合評価は、休眠預金等活用事業の制度趣旨にのっとり、
- 社会の諸課題の解決の担い手がどう育成されたか?
- 社会の諸課題の解決のための自律的かつ持続的な仕組みがどう創出されたか?
を明らかにすることを、中心に据えています。
これを前提として、執筆にあたり意識していたことは、3つあります。
1.困難や課題を具体的に示すこと
1点目は、「成功のみならず、直面した困難や課題も含めて、具体的に示す」ということです。
内容をお読み頂ければすぐ、お分かりになると思うのですが、今回の報告書では「成功要因」と共に、
- 「どんな困難に直面したのか?」
- 「想定外のできごとは何だったのか?」
- 「そこから見えてくる課題は何だったのか?」
という点についても多く触れています。
その意図は
- 経験から学ぶこと、そこから個別の資金分配団体・実行団体のより良い歩みへと活かすこと
- 制度そのものを俯瞰し、これから必要な改善策を導き出すこと
にあります。
執筆にあたっては、当事者の方々に掲載予定だった原稿の該当箇所を読んでいただき、やり取りを重ねました。
なおこのプロセスは、私ではなく、POをはじめとするJANPIAスタッフの皆さんにお骨折り頂きました。
特に、どんな困難に直面したのか?想定外の出来事はなんだったのか?という部分については、当事者である資金分配団体-実行団体の皆さんと、細かく調整頂いたと伺っています。
この点、スタッフの皆さんはもちろん、お付き合い頂いた資金分配団体&実行団体の皆さんに御礼をお伝えしたいです。
2.要素分解と俯瞰を両立させること
2点目は、「要素分解と俯瞰を両立させること」です。
多くの物事には、その背景に「そうなる理由」があります。
もちろん、急激な社会情勢の変化や、コントロールが出来ない出来事も世の中には存在します。例えば今回でいえばコロナ禍がこれにあたりますし、これはこれとして、どんな影響があったかをまとめています。
しかしそれらを除けば、多くの場合、物事の背景には理由があるはずです。
そう考えた上で、「起こったできごと」の背景にある理由や要因を要素分解し、分析を行いました。
ただ、要素分解だけでは全体像がわからず、逆に理解が深まらなくなってしまいます。
従って表現としては、俯瞰した視点と、要素に分解した視点の両方を往復しながら、報告を取りまとめています。
3.改善の糸口を導き出すこと
3点目は、「改善の糸口を導き出すこと」です。
資金分配団体や実行団体の皆さんを報告書の読み手として念頭に置いた際、「現在の担い手」だけではなく、「未来の担い手」に対する知見の還元も必要だと考えました。
であれば実践からわかったことを昇華し、「学び」として還元することが大切だと考えました。
また単に「学び」で終わらせず、「どう改善するか」という観点を忘れず、少なくともその糸口は示すことを意識しました。
実際に読んでいただくとわかるのですが、本報告書の構成は
制度概要
↓
成果
↓
課題(資金分配団体・実行団体・JANPIAそれぞれについて)
↓
これまで取られてきた改善策
↓
残された課題
という流れになっています。
特に第7節のP105で記載のある「(JANPIAとして捉えている)残された課題」の部分はぜひ、みなさんにお読み頂きたいです。
■スタッフの皆さんとの協働作業、そして知見の還元
報告書の策定の過程では、プログラム・オフィサーの方々を中心に、JANPIAのスタッフの皆さんが参加するWSを開催しました。
現場の団体とのフロントラインに立つPOの皆さんだからこそ、感じていることがあると思ったからです。
WSを通じて
- 自分たちの担ってきたことを客観的に捉えることが出来た
- 他のPOが考えていること、悩んできたこと/いることを知ることができた
- 他地域で起きていたことを俯瞰し、自分の担当していた/いる地域のことを相対化できた
という反応を頂きました。
このことは、今回のご依頼を通じて、もっとも嬉しかったことの一つでした。
—-
執筆の過程でも、JANPIAの皆さん、特に直接の担当者の方には大変粘り強いコミットメントを頂きました。
こうした報告書を書く時はいつもそうなのですが、
- 着地点を予想しつつプロセスを設計し、「やはりそうだったか」と納得しながら執筆する感覚と
- 新しい発見や見たことのない景色を味わいながら旅をする感覚
の両者が常に並立しています。
だからこそ面白く、この仕事が好きな理由でもあるのですが、やはり書いている過程ではそれなりの負荷や苦しさ、もどかしさも感じるものです。
そうした中で、共に考えよう、歩もうとするJANPIAのスタッフの皆さんの真摯な姿勢にはとても励まされました。
なお、報告書の完成を持って、先日JANPIAのスタッフの皆さんが勢ぞろいする、勉強会的なワークショップも開催しました。
投稿が長くなってしまったので、こちらはまた改めてポストしたいと思います。
■報告書の冒頭に添えて頂いた「執筆におけるスタンス」
と、紹介がとても長くなってしまいましたが。
最後にぜひ、報告書のP3にあるこちらの文書をお読み頂きたいです。
いわゆる「あいさつ文」とは別に、この報告書を世の中に送り出すにあたって、執筆者側がどう考えていたのか、そのスタンスを明示する観点から作成・掲載頂いたものです。
そしてぜひ、報告書を皆さんに目にして頂ければと思います。
(「概要版」よりも「本編」を見て頂くことをお勧めします。)
冒頭の制度概要の解説と、115ページ以降の「参考資料」は、JANPIAさんが以前から作成されていた資料の別添です。が、それ以外はほぼ、オリジナルで作成した内容です。
既に資金分配団体や実行団体として活動されていらっしゃる方はもちろん、これから取り組もうとされている方にもきっと、何かのプラスになる内容なのではないかな?と、期待しています。
—-以下、報告書からの引用です—-
総合評価(第2回)
「本報告書について」
- 本報告書は、事業開始から5年の間に、JANPIA自身が「指定活用団体」に期待される役割を実践していくプロセスにおいて、事業の実務に係っていただいた多くの関係者との協働・連携、対話を通じて得た学びをまとめたものである。
- 2回目にあたる今回の総合評価では、毎年の事業に向き合ってきた結果を、成功はもとより、直面した困難や課題も含めて具体的に示すことを重視した。これは休眠預金等活用事業が当初から目指してきた「民間公益活動の担い手の育成」を一層進める上で、これまでの取り組みを振り返り、そこから得られた貴重な経験から学ぶこと目指したからにほかならない。
- こうした観点から、本報告書は得られた成果とその要因を掘り下げることはもちろん、事業のプロセスで直面した想定外の事象や直面した困難が何であったのか、そこから得られた学びや、今後の改善に向けたポイントは何であるか、明らかにすることを意識した。
- 作成のプロセスでは、事業に関与してきたJANPIA職員(PO)もコミットする形で、知見の集約を行った。これは報告書の作成にあたるプロセスを通じ、 JANPIA自身がこれまでの取組みから学び、今後の糧とすることを意識したことによる。
- 本報告書の策定の結果、この先に対処すべき課題も見えてきた。これらについて、今後は職員への共有はもちろん、関係者の皆さまへの報告や対話の機会を通じて得られるであろうフィードバックなども活用しながら、JANPIA自身が各年度の事業計画に具体的な取り組み内容として反映させていくこととしたい。
- また休眠預金等活用事業への新たに参画を企図する関係者に向けては、事業計画の策定や採択後のブラッシュアップの機会に、本報告書を通じて得られた知見を活用いただけることも期待している。
- 本報告書が、現在・過去はもちろん、未来の担い手も含め、休眠預金等活用事業に関わる皆さまにとって、活動を深化させる上での学びや手がかりとなることが、本報告の作成に関わった関係者全ての願いである。本報告書をご覧頂いた上での気づきを、多くの皆様からいただけることをお願いしたい。
執筆者一同