公開されました/公益法人制度改革10周年特別プロジェクト報告書
2007年から約2年、公益法人 助成財団センターが設置した「公益法人制度改革10周年特別プロジェクト」(以下特別PT)に「専門委員」として参画させて頂きました。
PJ名:公益法人制度改革10周年特別プロジェクト
~公益法人制度改革が 助成財団に及ぼした影響と 今後の課題~
調査主体:公益財団法人助成財団センター
またこの度、この調査報告書が無事、公開されました。
(報告書全文はこちら)
http://www.jfc.or.jp/wp-content/uploads/2013/04/10PT_report.pdf
■公益法人制度改革10周年特別プロジェクトとは
同プロジェクトのミッションは、
- 公益法人制度改革施行 10 年を振り返り、
- 制度改革がわが国の助成財団にどのような変化をもたらしたか、成果と課題を洗い出すこと
- それを踏まえて今後に向けた提言を取りまとめること
です。
■私自身の立場と役割
特別PTにおいて、私自身は専門委員として
- 調査のフレームワークや設計への検討・助言
- サーベイ調査やヒアリング調査の設計に関するコメント
- 一部の事例調査(ヒアリング調査)の現地訪問
などの役割を担いました。
また、3月には公益財団法人 助成財団センターが主催するフォーラムに登壇しました。
フォーラムは、
- 特別PTとして約1年かけて実施してきた調査結果を共有すること
- 公益法人制度の今後に向けた「提言」を発信すること
の2つを目的として実施されました。
フォーラムでは同じく専門委員である産業能率大学 教授の中島先生と共に、第2部の進行と、各事例へのコメント、総括コメント等の役割を担わせて頂きました。
■4つの類型
特別PTでは、分析にあたって、2つの軸、4つの類型を置きました。
具体的には
- 公益法人制度改革の前から活動していた団体か、制度改革後に誕生した団体か
(前者を移行型、後者を新設型と便宜上称します)
- 公益認定を取得されたか、それとも一般法人のまま、活動を行っているか
(前者を公益、後者を一般と称します)
という視点になります。
*上の4事例を分類分けすると
- は移行型‐公益
- は移行型‐一般
- は新設型‐公益
- は新設型‐一般
と分類されます。
調査結果は既に報告書に掲載されていますので、全体の要旨についてはそちらをご覧頂くとして、以下、
・私自身が調査を通じて「なるほど」と感じた点や「やはり」と感じた点
・興味深いと感じた点
をメモ的に共有したいと思います。(なお、研究助成ではなく、主には民間公益活動への助成を念頭に記述しています。)
—–
(1)公益法人制度改革後、新設された助成財団の数は決して多くはない
2006年の公益法人制度改革関連3法の成立、2008年12月の施行により、日本の公益法人制度は抜本的に変化しました。
新たな一般法人は準則主義によって設立可能となり、一定の要件を満たせば行政庁の設置された公益認定等委員会の審査を経て、公益法人として認定されるようになりました。
公益認定制度の目的は「民間公益活動の増進」です。
目的の達成のためには、公益法人が質・量ともに充実し、成長することが求められていると思います。
しかし現実には、公益法人のほとんどは移行型です。
公益法人のうち約9,000件が移行型(つまり制度改革以前から存在していたもの)で、新設の公益法人は655に過ぎません。
さらにこの中で、制度改革後に誕生した新設の公益法人は、94件にとどまります。
(一般法人は30、合わせると124件)
実際、調査PTでも、新設の助成財団への調査は、そもそも母集団が少なく、サーベイやヒアリング対象の抽出の際すら、困難を感じました。
新設法人が少ないということそのものは、肌感覚として理解していたつもりでした。
しかし10年が経過しても、「新設の助成財団は6%にすぎない」という事実を数値として見ると、なかなかインパクトがありました。
(2)副産物的に…自分のやっていることがかなりレアな事なのだと改めて自覚した
私自身は株式会社 風とつばさとしての仕事とは別に、「世田谷コミュニティ財団」の代表理事をボランタリーに担っています。
世田谷コミュニティ財団は、大きな助成原資があるわけではなく、都度寄付を集めながら活動を行っています。
また昨年度設立された新設財団です(今のところ一般財団です)。
一方で、助成財団の多くを占める移行-公益型をざっと眺めると、「官」が関与して作られたもの、あるいは大企業がCSR活動の一環として作ったものが多く目につきます。
官製の場合、運営原資の多くは税財源です。
大企業が設立した助成財団の場合、母体となる会社やその関連会社からの寄付が殆どです。
つまり、一般から広く寄付を集めていないケースが多く存在します。
(キャンペーン的に寄付を集めるケース、レジ横の募金箱やオンライン寄付などを組み合わせている例もありますので、全てではありまえせん。)
潤沢な財源に裏打ちされているからこそ、余裕を持ち、大きな視座からの助成活動が出来る面もありますので、そのことそのものは悪いことではありません。
むしろ良い面も沢山あるのだろうと思います。
一方で、助成財団の全体像を改めて知り、ますます、自分たちの活動は日本全体から見てもかなりレアなもの
(新設、民間発、大きな助成原資を持たない、など、大多数の助成財団の逆をいっている)
のだと実感しました。
(3)自らを振り返り、改善する存在であり続ける必要性が生まれた
調査の中で、「公益法人制度改革により既存のプログラムの改変や新たなプログラムの設置に柔軟に対応できるようになった」、という声が上がっていたことが印象的でした。
主務官庁制の廃止によって、新たなプログラムの導入や既存のプログラムの改変が容易になったことは、制度改革のポジティブな側面として評価すべきなのだろうなと感じました。
しかし逆に言えば、助成財団は自ら設置したプログラムが有用か否かを省みながら運営を行うことが求められるということなのだとも感じました。
私自身は、助成財団の価値は、本質的には助成先の成長によって語られるべきだと考えています。
どんなに良いプログラムを社会に提示しても、それを活かし、成長し、受益者を支え、新たな価値を創出する活動と出会えなければ、本質的には価値を生むことはありません。
プログラムを常に見直し、時には大胆に組み替えながら、自らの果たすべき役割を発揮すること。
社会の変化を敏感に感じ取り、民間公益活動の多様性を確保しながら課題解決の方法を懐広く涵養していくこと。
そのことが、この先の助成財団に求められることなのだろうと思いました。
(4)制度改革の意味や経緯、歴史をどう伝えていくかが課題
今回の調査を通じて、「制度改革前のことはわからない」という回答が一定数存在しました。
インタビュー調査も少数ながら担当したのですが、その際にも「当時のことがわかる理事や職員が存在していない」というケースがありました。
また今回の特別PTでは、私自身が参加者の中では最年少でした。
私の世代だと、助成財団の黄金時代と言われるバブル崩壊前の状況はリアルには体感しておらず、また制度改革前の状況を肌感覚としては理解していません。
主務官庁制の廃止や準則主義による設立、独立した認定委員会による認定、といった各種改革は、当時からすればまさに「大転換」だったと聞きます。
新たな制度の下では、公益法人は自主自律、多様性が尊重され、同時にガバナンスやディスクロージャー・アカウンタビリティが求められるということなのだと感じます。
そのことを、制度改革に奔走された世代だけではなく、我々世代が理解し、より良く活かしていかなければならないな、そうでなければ改革の意味が無に帰してしまうのだな、と感じた次第です。
■調査から感じたこと
助成財団の存在を、水量を調節する「ダム」に例える表現を目にすることがあります。
雨(=助成原資、財源)をストックし、社会のニーズに応えながら必要量を下流に流す(現場の団体に資金を提供する)さまをなぞらえた表現だと思います。
「ダム」と言われると無機質なコンクリート製の巨大構造物を連想してしまうのですが。
求められているのはおそらく、無機質なコンクリート製のダムではなく、自然の貯水機能を有しながら、多様性あふれる豊かな生態系を育む「山」や「森」のような存在ではないかと感じます。
山や森の姿は、地域によって、状況によって、環境や時代によってそれぞれ異なります。
山や森そのものが生態系であり、そこにある生態系と呼応しながら、その形が常に変化していきます。
今後も研究する側、各種財団をサポートする側としてはより良い生態系をどうしたら育てていけるか考えていきたいと思いますし、実践する側としては、世田谷という街の中で小さな森を育てていきたい、そこから生まれた生態系を大切にできればと感じました。
今回特別PTのメンバーにお誘い頂いて、大変光栄でした。
尊敬する山岡先生(助成財団センター現理事長)や、検討会座長の蓑さんはじめ皆さんとご一緒できて、私自身もとても学び深かったです。
事例集も含め、情報満載の調査報告書です。
全文がPDFで公開されています。ぜひお読みください!