vol5:(まとめその2) 成長速度、多様性、包摂、そして日本は?/サンフランシスコ滞在
ここまで4回にわたってSOCAPについて解説してきました。
最後の2回は、今回の滞在(といっても最初に記載したとおり、個別のインタビューには言及できないので、少し曖昧な記載も含みますが)を通じて考えたことを記しておきたいと思います。
<記事について>
Vol.2:セッションまとめ その1/コミュニティ開発・支援の文脈との接近
■成長スピードの差
まず感じたことは、Impact Investmentや財団、コミュニティ開発金融機関等、形式を問わず、先頭をひた走っている層は特に、相当なスピードで変化しているなということです。
それぞれの担い手は独自の変化を続けていますし、流入している金額の絶対量も格段に増えているという印象を持ちました。
個別の組織をみても、例えば登壇していたコミュニティ開発金融機関のネットワーク組織であるOpportunity Finance Networkや、SOCAPのスポンサーでもあるTIDES財団などは、数年前の訪問や調査の際に比べると、格段に進化し、業界内でのリーダーシップを発揮していると感じました。
自分が最初にこれらの組織を訪問・あるいは学んでから10年以上、対象によっては20年近くになる例もあるのですが、その10年ないし20年の彼らの成長と、私たちの国で起こった変化のスピードを比べると、その差にはやはり圧倒されます。
Community Foundation、Family Foundation、Private Foundation、Corporate Foundationなど形式を問わず、財団の変化も感じました。
もちろん、SOCAPのような場所で登壇する組織や、こちらが先行例として訪問する例は、トップクラスであることが多く、海外の事例すべてが成功しているとは思いません。
しかし、トップ層がどの程度の活動をしているかを知る機会を得たことで、生態系全体のサイズ感を推し量ることもでき、結果として日本との相違を如実に感じる機会になりました。
これは、海外の事例を散発的に日本国内で調べたり、シンポジウムに行くという形での情報収集とは違う意味を持っていたと感じます。
■エコシステムの豊かさの差
また印象的だったことは、2つ目の投稿にも記載したCDFIやコミュニティ財団等のPlace baseのコミュニティ投資の話や、Indigenous Communitiesに対する投資、あるいはブロックチェーンの活用やSub Saharan Africaなど、議論に多様性があったことです。
Impact Investmentへの批判として、
- 定義のあいまいさや
- 従来の投資との差異のわかりづらさ
- 投資家と投資先とのパイプラインの細さ
- ミッシングミドルの存在
などが言われていますが、そうした点を克服しようとする努力を感じます。
会場内では、「認識されている課題は解決できる(課題は課題だが、課題として認識されているのであれば大丈夫だ。解決策はいつか必ず見つかるはずだ)」、という発言もありました。
こうした楽観性やチャレンジ精神はUSでの会議らしいなと感じますし、課題そのものも、変革のダイナミズムのただ中にあるからこそのものもあるのだろうな、と感じました。
また時間が解決するもの、プレーヤーの登場によって解消されていくものもありそうに思います。
今回はSOCAPに行ったことで、エコシステムの豊かさの差をリアリティをもって実感することができました。
今までも各種訪問や滞在、ネットワーク組織への訪問を通じてその豊かさには触れてきたつもりでしたが、関心を持つ担い手が一同にあつまる熱量は想像以上で、これからの日本を考える上で、とてもよい刺激になりました。
■より包摂度の高いエコシステムへ
また、インパクトインベストメントが、一部のエスタブリッシュメントの中での盛り上がりというフェーズから、より多様で包摂的なコミュニティに変化していこうという努力の最中にあることも感じました。
おそらくこれはSOCAP運営者側の意図でもあるのではないかと感じます。
「SOCAP〇〇」(〇〇の中には数字が入ります)はこのネットワーク組織のフラッグシップイベントという位置づけですが、より日常に近いところで情報共有や関係性を維持しつづけようという意図で、「SOCAP365」という取り組みもスタートしているそうです。
https://socialcapitalmarkets.net/socap365/
また各都市を回ってSOCAPを開催する試みも(まだアメリカの中だけだそうですが)始まっているとのことですので、いつかSOCAP TOKYOか、SOCAP JAPANが出来たら良いなと思います(どなたか一緒にやりましょう!)。
■日本の存在感
全てのセッションには出られない(何せ140もありますし、そもそも全日出ていたわけではない)ので、すべてを語ることはできないのですが、残念ながら存在感は極端に薄かったなと思います。
そもそも日本から参加している人が少ないこと、どうしてもアメリカの事例が多くなる(そこにヨーロッパやアフリカが続く)形なので、仕方がないなとは思うものの、少し寂しい気もします。
私が知る範囲で「JAPAN」についての言及があったのは、
- オープニングプレナリーでのGSGのCEOであるAmit Bhatia氏からのメッセージ(Impact Investment:State of Global Movement)の中で、休眠預金の件が触れられた一瞬と、
- Impact Hub TOKYOの関係者の方が持たれたセッションが存在していたこと、
この2点ではないかと思います。
(*GSGとは、The Global Steering Group for Impact Investmentの略で、21の国+EUが参加しています。Impact Investingを世界で広げることを目的としており、旧G8社会的インパクト投資イニシアチブが2015年に発展改組されたものです。詳しくはこちら http://gsgii.org/about-us/ )
GSGのCEOであるAmit Bhatiaさんからは、ヨーロッパ、アフリカ、中東、オセアニア、アジアと世界各地のImpact Investmentに関する動きが国別に紹介されたのですが、地球をぐるっと巡って最後に言及があったのが日本だった、という次第です。
アジアへの言及はバングラデシュのマイクロファイナンスと韓国、日本のみだったと思います。
米国西海岸でのカンファレンスであるため、参加者が少ないのは致し方ない部分はありますが、成熟国家かつ経済大国である日本からの取り組みや発信そのものが少ないのは寂しいなとも感じました。
このあたり、日本の一つの課題何だろうと感じた次第です。
—–
ほかにもたくさん書きたいことはあるのですが、それはまた別の機会に。
帰国してから振り返ると、忙しくも充実した滞在でした。またサンフランシスコに行く日が楽しみです。