Vol.2:コミュニティをベースにインパクト投資を進める/セッションまとめ その1(サンフランシスコ滞在)
前回は、SOCAPの全体像について、ご紹介しました。
今回は、SOCAPでのセッションを通じて自分自身が感じたことをまとめていきたいと思います。
<記事について(予定)>
こんな感じで書いていきたいと思います。途中で変更するかもしれませんが。Vol.1:SOCAPとは?-概要、雰囲気、運営の様子
Vol.2:セッションまとめ その1/コミュニティ開発・支援の文脈との接近 ←今回の記事です
■コミュニティをベースにインパクト投資を進める
関心をもって参加したセッションの一つに、コミュニティベースでインパクトインベストメントをどのように進めていくか、というテーマがあります。
自分自身はもともとコミュニティに関心がありますし、最近では世田谷コミュニティ財団の運営も行っているからです。
こちらのセッションは、まさにそうした点にフォーカスしたセッションでした。
”Investing in place : How Federal policy drives investment capital to community”
こちらのセッションでは、「Opportunity Zones」といわれる連邦政府の新たな支援策について議論されていました。
■Opportunity Zonesとは
Opportunity Zonesとは、連邦政府による米国内の貧困衰退地域再生に向けた政策です。
https://eig.org/opportunityzones
全米内で8700以上の貧困衰退地域が指定され、当該地域への投資を促進するため、税制優遇が設けられています。
2015年に検討がスタートし、2017年に法制化されたとのことです。
H.R.828 – Investing in Opportunity Act
https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/828
サイト上では地図から該当地域を検索することができます。
エクセル形式での表も掲載されており、州別に住所から対象エリアを探すことも可能です。
https://esrimedia.maps.arcgis.com/apps/View/index.html?appid=77f3cad12b6c4bffb816332544f04542
例えばこんな報道もあります。
https://www.cnbc.com/2018/10/19/investors-can-get-tax-breaks-for-investing-in-opportunity-zones-treasury.html
Investors can get big tax breaks if they invest in ‘opportunity zones’ under new Treasury rules
- The Treasury Department on Friday outlined rules for investors seeking to finance development in under-served regions in exchange for significant tax breaks.
- The opportunity zones come with several tax advantages. Capital gains placed in a certified opportunity zone fund will not be taxed through the end of 2026 or when the investment is sold, whichever comes first.
- Investors who can participate include individuals, corporations, businesses, REITs, and estates and trusts.
■コミュニティ開発金融の背景
私自身は10年ほど前からコミュニティ開発金融機関(Community Development Financial Institutions)について調査研究を行ってきました。
過去も訪問調査に訪れたり、学術論文にまとめたこともあります。
その当時、Impact Investmentという言葉は世の中に存在していませんでした。ちなみに2007年ごろに生まれた言葉だと言われています。
一方ですでにCDFIには長い活動の蓄積がありました。
アメリカのコミュニティ開発金融の歴史をさかのぼれば19世紀に辿りつきますし、大恐慌時代、移民の増加、公民権運動とその歴史は営々と続きます。
政策的には1990年代半ばから本格的なサポートが始まります。
具体的には、CDFI Fundといわれる連邦政府の基金の設置、金銭的な支援(Financial Assistance)と技術的な支援(Technical Assistance)の組み合わせ、投資減税制度などが挙げられます。
投資現制度はNew Market Tax Creditと言い、コミュニティ投資の市場形成と投資家の誘引を目的として導入されたものです。
こうした支援策の背景には、
- 貧困衰退地域の圧倒的な不利さ
- レッドライニング(地図上にリアルに赤い線を引き、該当地域に金融機能を提供しない、という金融排除が常態化していた状況の打開への意思
- CRA(Community Reinvestment Act)に代表される、世界を廻る大手金融機関の資本をコミュニティへという政策的な意図
が存在します。
一方で、政策的な支援の対象となるCDFIは常に良い意味で競争にさらされています。
認定CDFIという仕組みがそれにあたり、情報公開を含む複数の成果指標を達成しなければ、FAもTAも受けることができません。
加えて日本にはない雇用の流動性(コーポレートセクター、例えば金融やマーケティング、コンサルティングなどの業界からソーシャルセクターへ、またはその逆)が、知的・人的リソースの還流を促し、コミュニティ開発金融にかかるマーケットが成長してきた背景があると感じています。
こうした歴史や社会的背景の中で経験を重ねてきたCDFIは、インパクト投資という概念と繋がり、また新たな展開を見せていると感じます。
■今回のセッションの焦点
今回のセッションでは、連邦政府が新たに設置したOpportunity Zonesについて、実際に現場で活動するコミュニティ開発金融機関の担い手や、インパクトインベストメントの担い手、それらのネットワーク組織の方が登壇して議論していました。
そこで議論されていたことは、「連邦政府の政策的支援(Opportunity Zones)によりインパクト投資が促進される中で、ローカルコミュニティの声と資本とをどのように結びつけるか」ということでした。
■感じたこと(その1):忍耐強さから学ぶ
コミュニティ支援は、
- 移民の支援など、経済的なハンディキャップだけではなく、言語や文化の面からもハンディキャップがある対象者や、
- 何世代にも亘って貧困が連鎖してきたエスニックマイノリティなどへの支援
- 「不動産活用」といっても、単に開発をするだけでは社会的公正を守れないケースなど
手がかかり、時間をかけて事業を成長させることが求められる領域が多くあります。
また、新たなテクノロジーへの投資や革新的な商品への投資とは異なり、コミュニティに暮らす当事者との地道な対話とエンゲージメント、当事者そのもののエンパワメントが必要とされる分野です。
以前から感じていることですが、良い活動を行っている良いコミュニティ開発金融機関は、非常に忍耐強くこうした社会的に弱い立場にある方々と関わりを持っていると思います。
同時にそれは、そうした取り組みを支える寄付や助成等の慈善的資金、政策的支援の存在があってこそであることを忘れてはなりません。
コミュニティ開発金融機関は金融機関として独立した運営を行っています。
しかし一方で財源をミックスさせることで、商業的な取り組みのみでは成立しえない人や組織の成長を支え、「コミュニティ開発からコミュニティを排除しない」(商業的・経済的な成長の結果、新たな排除を生み出さない、もともとあったコミュニティを分断しない)役割も担っていると言えます。
セッションでも、「ウォールストリートからの資金流入を歓迎しながら、コミュニティ開発金融機関が積み重ねてきた歴史的な背景や知恵、忍耐強さから学ばなければならない」という発言が聞かれました。
また別の方からは、「新たな政策(Opportunity Zonesによる資金還流促進政策)はあくまでもツールの一つであり、コミュニティエンゲージメントが進まなければ結局は何もすすまない」という声が聞かれました。
私自身は、インパクト投資という概念に惹かれると共に、コミュニティ開発金融の役割やコミュニティ財団のようなPlace baseの慈善型の取り組みにも共感していますので、この点についてまさに、と感じました。
■感じたこと(その2):Place basedのコミュニティ支援とインパクトインベストメントとの繋がり
もう1点、今回感じたのは、地理的な範囲を軸とするコミュニティ支援とインパクトインベストメントとの繋がりです。
例えばGSG(旧G8社会的インパクト投資タスクフォース)では、コミュニティ開発金融機関を「需要」と「供給」を結ぶチャネルと捉えています。
下記のレポートは2014年に発行されていますので、その頃からエコシステムの一員として位置づけられていたと捉えることが出来ます。
一方で、インパクト投資をより専門的に扱う組織・ファンドが出現する中で、そうしたより専門的な主体に相対的に光があたり、期待されてきた面があるとも感じていました。
しかし、今回のSOCAPでは、私が参加したセッションに限らず、コミュニティ開発金融とインパクトインベストメントを語るセッションはいくつも開催されていました。
またCDFI業界の方々もいくつもそこにパネリストとして登壇されていました。
私がSOCAPに参加したのはこれが初めてなので、時系列での議論の変化を追うことはできませんが、登壇者の発言やセッションの内容から、それぞれの役割や経験への尊重を強く感じました。
インパクト投資は、大変魅力的な概念です。
だからこそ、限定された一部の層の取り組みに矮小化してしまうのではなくて、多様な主体がそれぞれの意思をもって活動することが重要だと感じましたし、それが社会課題の多様化の中にあって、残された道などだとも感じました。
新たなプログラム(Opportunity Zones)をどう、活かしていくのか?
その問いに対しては「レガシーに学ぼう」という締めくくり言葉がとても印象的なセッションでした。
以上、Vol2をお届けしました。毎回長くなってしまいますが、引き続き反芻しながら書いていきたいと思います。
<参考>
Opportunity Finance Zone
https://www.irs.gov/newsroom/opportunity-zones-frequently-asked-questionsカリフォルニア州のWebサイト
http://dof.ca.gov/Forecasting/Demographics/opportunity_zones/CDFI Fundによる解説
https://www.cdfifund.gov/Pages/Opportunity-Zones.aspx