災害ボランティアに参加する前に知っておきたい4つのこと ~「派遣する側」と「派遣される側」の両方をやって感じたことから~ /西日本豪雨
1.本記事の目的
本投稿は、5年前に偶然、災害ボランティアセンターの立ち上げと運営に「ボランティア」という形でかかわった筆者が、これから西日本の災害ボランティアに行こうとする皆さんへ伝えたいことをまとめたものだ。
筆者は職業としてNPOやソーシャルセクターに関わっている立場ではあるが、いわゆる「被災地支援のプロ」ではない。また自分が直接災害に遭った経験はない。あるのは豪雪時の災害ボランティアセンターの立ち上げ(ボランティアを派遣する側)の経験と、東日本大震災後の瓦礫や泥かきのボランティア(ボランティアとして派遣される側)の経験である。
しかし、
①短期間ではあるものの災害ボランティアセンターの立ち上げに関わった経験と、
②労働力を提供する一ボランティアとして参加した経験
の両者を持つ人は相対的に少ないだろうし、必要な道具や装備以外に、これから災害ボランティアに行こうとする皆さんに向けて留意点を発信したものもあまり見かけない。
今週末あたりから、災害ボランティアの参加の呼びかけはいっそう高まっていくだろうし、参加する人も増えるだろう。そしてトラブルも増えるだろう。
そう考えたことから、不足を承知でこの記事を書くことにした。
ごくごく個人的な体験をもとに書いた記事だ。すべての被災地に当てはまるかはわからない。主観や偏りがあることもお許し頂きたい。
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なお、災害ボランティアに行く前には、基本的な事項(そもそもボランティアを募集しているのか、備えとして何が必要か、保険の手続きはどうしたらいいか、など)を抑えておく必要があるが、本稿ではこうしたことには触れていない。
そうした情報を求めている方は下記をご覧頂きたい。
○災害ボランティアセンターの開設状況を知りたい方はこちら
(日々新着情報が更新されているので、最新のリンク先をクリック。全社協さんは現場の市町村社協→県社協と情報を吸い上げサイトに反映している。)○水害ボランティアに関する具体的な備え(服装や持ち物など)を知りたい方はこちら
○ボランティア保険についてはこちら
それでは本題。「災害ボランティアに行く前に知っておきたい4つのこと」である。
2.災害ボランティアに行く前に知っておきたい4つのこと
要点は4つある。
(1)時間を守る(特に終了時間)
(2)ボランティアセンターの運営をする人も被災当事者である可能性を考える
(3)活躍できなくても怒らない
(4)「終了後、気持ちを切り替えられる方法」を考えてから参加しよう
(1)時間を守る(特に終了時間)
まず何より心がけて欲しいことは、時間、特に活動終了時間を守ることである。
ボランティアセンターには開所時間と終了時間がある。朝、集合してグループをつくり(初対面の方とグループになる場合もある)、派遣先の情報(どんなサポートを必要としているのか、住所はどこか、など)を聞き、現地へ移動する。このことをマッチングと言う。
終了時間は15時ないし16時が多く、時間になったら皆、ボランティアセンターに戻ることになる。
7月の15時、16時はまだ日が明るい。というか真昼間である。
目の前で困っている人がいるにも関わらず、まだ日が高いうちに作業の途中で帰ることに罪悪感を持つ方もいるに違いない(自分もそうだった)。
またマッチングに手間取ったり、道具の手配に時間がかかったり、交通状況が思わしくないなどで、現地に行ったが活動時間は1~2時間で、殆ど何もできずに一日が終わる、ということもあるかもしれない。
しかし、考えてみて欲しい。あなたにとっては1日だけのボランティアかもしれないが、被災地にとっては、これからしばらく続く日常なのだ。
また長時間の活動は集中力をそぐ。それは事故や怪我を呼ぶ。
夕方ボランティアが帰ってこないことで、災害ボランティアセンター全体の業務が滞ってしまうこともある。それは翌日の運営に跳ね返る。
- 時間をきっちり守ること。
- 終了の際は何がどこまで出来たか確認し、翌日以降の活動に引き継ぐこと。
- 気持ちの余裕をもって、関わらせてくれてありがとう、と、笑顔で被災者のお宅からボランティアセンターに戻ること。
それだけで、災害時のボランティア活動は持続力が高まる。
(2)ボランティアセンターの運営をする人も被災当事者である可能性を考える
地元の社会福祉協議会が設置した災害ボランティアセンターは、殆どの場合地元の職員の方が運営を担っている。
今回、被災したエリアは人口が少ない、いわゆる「田舎」のケースが多い。
小さな町では、代理の人がおらず、ご自身が困難な状況にあっても、先頭に立って指揮を執っているケースもあるだろう。
ご自身や家族・親族、友人や恋人が被災しているケースもあるだろう。
さらに言えば、その職員の多くは、災害ボランティアセンターの運営を生まれて初めて行っている。
災害が起こった際に地元の社会福祉協議会が災害ボランティアセンターを運営し、ボランティアの受付を行うことはここ数年で一般化している。
しかしリアルな担い手である地元の社会福祉協議会の職員は、多くの場合、開設の訓練や研修こそ行っていても、リアルな運営に初めて直面しているのだ。
実際、不慣れな状態や状況が整わない中で、災害ボランティアセンターの開設そのものに躊躇するケースもあると聞く。また人が殺到した場合のトラブルを恐れてか、市外在住者の参加をNGとしているケースもあるように感じる。
災害ボランティアに参加する方が、「慣れない中で、慣れないもの同士が、それでも困っている誰かを助けるために作られた空間。それが災害ボランティアセンターなのだ」ということを前提知識として知っているだけでも、現地での感じ方が違うのではないかと思う。
そして無用なトラブルは少なからず減るのではないかと思う。
そのことは結果として、災害時の支え合いやボランティアが、私たちの社会に根付く上でも大切なことだ。
*但し、災害ボランティアセンターの運営経験のある他地域の人材が応援に入る例もある[i]。また私のように知り合いづてで他地域から運営側にボランティアに来ているケースも無いわけではない(が稀だと思う)。
また被災地支援を専門的に行っているNPOが自ら設置したボランティアセンターも存在する。その場合は状況が異なる。
※社会福祉協議会って何?という方はこちらをどうぞ。
全国社会福祉協議会による解説文 https://www.shakyo.or.jp/bunya/shakyo/index.html
Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%A6%8F%E7%A5%89%E5%8D%94%E8%AD%B0%E4%BC%9A
(3)活躍できなくても怒らない
「遠くからボランティアに駆けつけて、ボランティア保険にも入った。自分の食糧も持参している。軍手をもって、長靴を履いて、さあ受付…あれ、ボランティアが足りている、って…お昼まで待機…え、ほんとに??」
そんなこともあるかもしれない。それでも窓口の担当者に怒りをぶつけるのはやめよう。
災害ボランティアセンターは、マッチングによって成立する。ニーズが上がってきて初めて、ボランティアを派遣することが出来る。
また、例えば
- 現地までの移動手段が確保されているか(車はあるか、通行できるか、運転するのに危険な場所はないか)
- 天候は大丈夫か(二次災害への備えも当然ある)
- 専門的な技術を必要とするニーズではないか
など、災害ボランティアセンターを運営する側は、複数の観点で確認をした上でマッチングを行う。
確認には時間がかかる。特に初期はオペレーションが機能していないので余計だ。
また地域によってはニーズが十分上がってきていないケースもある。
あるいは作業上・安全配慮上必要な道具が揃わないケースもある。
その結果、ボランティアの方を待たせることもままある。
また、行った先が不在で作業が出来なかった、道が無かった、重機が入った作業があって道が通行止めになっていた、などのこともある。
派遣したが、重機作業で通行止めになっていて、現地に着くまで2時間かかったというボランティアもいた(災害対策本部との情報共有不足が原因)。
私自身、ボランティアとして参加した際に長い時間待った上に今日の作業は無い、と言われたこともあるし、運営側の経験として移動手段が確保できず数時間、ボランティアの方の派遣を見送ったこともあった。
物資の仕分けと言われて体育館に移動したが、情報が混乱していて、行った先は空っぽの段ボールの山だったこともある。前日の作業状況が引き継がれていなかったから発生したことだ。
今週末など、きっと各地のボランティアセンターは混乱するだろう。休みの日にボランティアしようと考える方が多いため、開設した最初の土曜日の午前中は初期のオペレーションの悪さも相まって、たいてい混乱するからだ。
そんな時に、「せっかく来たのに」と怒りに任せて詰め寄ってはいけない。
ニーズ発掘の不十分さや、作業用の道具が現地に届いていないことは確かに問題かもしれない。
しかしそれは、平常時の地域コミュニティのつながりの希薄化の裏返しであったり、高齢者が増えてしまった日本の過疎地域の問題だったり、専門職の不足であったり、行政や市町村の災害対策本部との情報共有の不足だったり、いずれにしても日本の悲しい現状や非常時の混乱が背景に存在する。
窓口で数分怒ったところで解決する問題ではない[i]。
そんな時は、スコップをもって泥だらけになって、勇猛果敢に活躍したいという欲求を抑えて、何かほかに出来ることを探そう。
災害ボランティアセンターの掃除や事務作業のサポートだって、立派なボランティアだ。
運営面で感じた疑問は、「怒り」ではなく「改善の種」として運営側に伝えよう。
またボランティアセンターを運営する側は、活動終了、あるいは何らかの区切りの際に振り返りを行い、経験を学びに変える必要があると思う[ii]。
(4)「終了後気持ちを切り替えられる方法」を考えてから参加しよう
被災した現場は過酷だ。今回の場合は泥、汚水、照り付ける日差しや再び降る雨との闘いだろう。
普段屋内で働いている人にとっては、外にいるだけで相当な疲労を感じる。そして目の前に広がっている非日常の空間。
どうしても、気持ちが揺さぶられ、身体だけではなくて心が疲れる。
自分自身もそうだった。災害ボランティアセンターの運営に従事した5日間、猛烈に疲れていたが殆ど眠れなかった。気負いもあっただろうし、非日常の連続が自律神経のコントロールを失わせていたように思う。
だからこそ、皆さんには「終了後に気持ちを切り替えられる方法」を考えてから現地に赴いて欲しい。
その方法は人によって様々だろう。
- 帰路、気分転換ができるようにイヤホンを持参する
- 耳栓と目の上を温めるアイマスクを持参して、眠れるか否かに関わらず帰路は寝る体制を取る
- ボディ用ウェットシートを持参して、活動終了後に着替える際に全身を拭く、など。
これらは皆、筆者が実際のボランティア活動の際に実践したり、周りに勧められたことだ。
強い刺激を受けた心と体を休める一番の方法は、睡眠を取ることだ。眠れなければ目をつむるだけでもいい。
友人・知人と共に参加する場合は、感じたことをシェアし気持ちを吐き出すことも有効だと思う。
但しシェアといっても許可なく被災した方ご自身や家屋を撮影したり、SNSへ投稿することはご法度だ。
大変な現場を目にすればするほど、力が湧く人もいるだろう。しかしそれは一時的なもので、一種のハイな状態だ。
金銭的な報酬も無いのに、ボランティアとして身銭を切って現地に行こうというあなたのことだ。きっと優しい人なんだろう。
しかし、被災したのはあなたではない。冷たく感じるかもしれないが、相手と自分を自己同一視してはいけない。
報道を見る限り、復旧:復興には時間がかかることが予想される。
被災地に長く寄り添うためにも、あなた自身の日々の生活を守るためにも、ボランティア活動終了後には意図的に気持ちを落ち着ける方法と時間を持とう。日常に戻れる方法を考えよう。
そして被災地が必要としていて、あなたにその体力と時間があれば、再び現地へ赴こう。
3.終わりに
以上4点、ごく個人的な体験から「行く前に知っておいたら良かったな」「これから現地に行く人には知っておいて欲しいな」と思ったことをまとめた。あくまで個人の体験に基づく記載なので、場所やタイミングによって状況が異なることはご了承頂きたいと思う。
最後に。被災地に貢献する方法はいくらでもある。遠隔地からできる最大の貢献は寄付だ。
義援金であっても支援金であっても構わない(両者の違いについて過去記載した記事はこちら。あるいはこちら)。
私もいくつかの団体に先週の段階で寄付させて頂いた。
今、被災地に必要なのは「応援しているよ」という気持ちだと思う。それぞれの方法で、傷ついた人と街を支えられたら良い。
——以下注釈——-
注)災害ボランティアセンターとは、「(水害や地震、大雪など何らかの災害によって困っている被災者」と、「被災した人・地域を支えたいと考えているボランティア希望者」を繋ぎ、少しでも早く日常生活に戻れるようサポートするための機関である。
恒常的に置かれているものではなく、大規模な災害が発生した際に設置される。各市町村にある社会福祉協議会が設置しているケースが多いが、被災地支援に特化した団体や、日本財団のような大規模な組織が個別に設置しているケースもある。
注)
[i] こうした取組みもある。「災害ボランティア活動支援プロジェクト」サイトを見ると、7/8時点で都道府県単位の社会福祉協議会にメンバーが派遣されているようだ。そろそろ市区町村単位の社会福祉協議会にもスタッフが派遣されている頃だろうか。こうした「支援者の支援に関する全国的な取り組み」について紹介した過去記事はこちら。
[i] これもあくまでも筆者の肌感覚であるが、地方に行けば行くほど、社会福祉協議会のスタッフのリソースは在宅福祉サービスなどの現場スタッフに力点が置かれがちなように思う。
介護保険事業を含め、必要とされる福祉サービスの主たる供給者に社会福祉協議会がなっている場合(他の民間のサービス供給主体=民間企業や社会福祉協議会以外の社会福祉法人などが極端に少ない場合)、その傾向は顕著になるように感じる。
結果、災害ボランティアセンターの運営のような柔軟かつ素早い対応が出来る人材がそもそもいない、あるいは極端に少ない、というケースも少なくないのではないかと感じている。
[ii] 筆者が過去に関わったケースでは、ボランティアセンターの活動終了後に振り返りの機会をワークショップ形式で開催した。振り返りの会そのものも、ボランティアとして運営や資料作成、報告書作成などで貢献させて頂いた。経験を学びに、気づきを改善に繋げるためには必須のプロセスだったと思う。