営利と非営利の境目なんて、早く飛び越えちゃえばいいのに。(CICその2、事例編:HCTグループ)

前回UPしたCICに関する記事。お陰様で大変多くの皆さまにお読みいただいたようです。 (その1はこちら。)

せっかくなので、具体的な事例をご紹介してみたいと思います。

ということで、過去レポートを読みつつ、その2をUP。


みなさん、バス好きですか?

何を隠そう、私、バス好きなんですよね^^

特にロンドンの赤いバス、大好き。 



今日はそんなバスを運行するソーシャルビジネスのお話を。


写真は、前回お邪魔した際に、とあるCICから頂いた資料。

HCTグループ、と言います。




正式名称は、Hackney Community Transport Group。

コミュニティ・トランスポート(コミュニティ交通)を専門とする社会的企業です。

設立は1982 年。ロンドン北部の貧困衰退地域で活動しています。

「グループ」と称している通り、傘下にCIC やジョイントベンチャーなど、複数の組織を有するチャリティ団体です。

この事例のポイントは、

 -商業的な位置づけの強い事業と
 -福祉的・コミュニティ支援的な意義の強い事業と
法人形態を組み合わせていること。
 

つまり「収益向上を目指す会社」と、「儲けだけではない、よりミッション志向の会社」を組み合わせて事業をしてるんですよね。

具体的に見ていきます。

■地域団体が協力して立ち上げ

Hackney地区では、もともと30位の地域団体が、ばらばらにコミュニティ内での輸送サービスを行っていました。

これらの団体が協力し、立ち上げたのがHCTグループです。

活動開始時点で、自前で持っていた車両は6台。

自治区議会からの補助金も活用しつつ、身体の不自由な方を玄関先までお迎えにいく輸送サービスや、リフト付きのバス、などを運営していました。

■事業傾く、でもめげない

その後ミニバスの運営に成功するも、一度事業が傾きます。

しかし、ボランティアの支えや、会員制サービスの利用者向上などが功を奏し、経営が立て直されました。

■赤バスの運営を受託!→別会社を立ち上げ


2001年には、ロンドン交通局からリバプールまでの路線バス(ルート153)を受託

ロンドンのシンボルとも言える、赤い路線バスの運営ですね。


これが転機となり、別会社(CT Plus)を立ち上げます。

さらに路線バス事業が拡大、2004年以降は飛躍的に組織が成長します。

■事業、波にのる

波に乗ったHCTは、スクールバスの運営も始めます。

一つは養護学校に通う子供向け、ですね。毎日500名の子どもを輸送している、と聞きました。

ほかにも一般的なスクールバス運営も行っています。


■就労に向けた研修事業も

残念ながら手元のチラシそのものは見つからなかったのだけれども、HCTグループでは運転手の養成研修をはじめ、各種就労トレーニングも行っています。

アフリカン・アメリカンの女性がバスの運転手さんの制服を着て、にっこり座席に座っている写真が印象的。




と、ここまでが大体のストーリー。

で、最初に戻ってみます。

 -商業的な位置づけの強い事業と
 -福祉的・コミュニティ支援的な意義の強い事業と
法人形態を分けた、とはどういうことか。




■複数の法人形態を活用する強み

例えばロンドンの赤バスは、HCTグループにとってとても商業的な取組み。

一方で、障がいを持つ方や高齢者の輸送は、福祉的・コミュニティ支援的な意義をもっていると考えられています。 

だから、それに適した法人形態を都度選択している。

もちろん税制優遇や意思決定のスピードやガバナンスも考えながら。

■もうちょっと詳しく 
HCTグループは、保証有限責任会社やIndustrial Provident Societyと呼ばれる法人形態など、複数の法人形態を活用しています。 

また、保証有限責任会社のステイタスも、CICだったり、チャリティだったりと色々。

グループ内にはジョイントベンチャーや子会社もあります。

図で見るとこんな感じ。



四角で囲まれた一つひとつがHCTグループを構成する個別の法人です。

線の色が違うのは、法人形態別に分けているから。とてもカラフル。色んな形態を活用していることがわかります。

また、地域住民の代表者によって構成される「Regional Advisory Committees」が置かれていることも特徴です。

ただこれは、事業について口を出すイメージではなく。交通サービスを運営する民間事業者として、商業的な経営感覚も必要です。なので取締役会の構成メンバーには、住民代表は入っておらず、意見を申し伝える機関として位置付けられています。


■税制面での恩恵 
CIC はチャリティと異なり、税制面での優遇は全くありません。 
ですが、チャリティが子会社を設立して収益事業を行い、その子会社からチャリティへ収益がギフトエイドの形態で寄付する、その場合は課税されないという特徴があります。


そこで、CTplus では、収益をすべてHCTグループが吸収するという方法を取っていると仰っていました。


■まとめ(営利と非営利を横断した仕組みに学ぶ)

HCTグループは、イギリスの社会的企業の中でも、非常に大きなサイズの事業体です。 
CT Plusは、商業的な側面も強い。路線バスの運行にあたっては、社会性、よりも正確さや信頼性が重要になるのは当然のこと。 

一方で、HCTグループは、その成立過程からしてとても社会性を持っています。 
そういう意味で、商業的な性格を持ちながらも、社会性を主張できる事業体=CICは、HCTグループのアイデンティティにマッチしたのだと感じました。


グループとして、長期的な戦略(失業率が相対的に高く、貧困率も高いエリアをどう再生していくか。あるいは交通弱者の問題をどう解決していくか)に照らし合わせながら、その時々に最適な器=法人形態を選択していく。
そんな戦略性が、HCTグループの事例からは感じられるかな、と思います。


■日本では?

日本でも、何度もソーシャルビジネスの法人格が議論されていますよね。

例えばこんな研究会とか。

(こちらは今日も開催されてました。)

あるいは地域自治組織を支える法人制度のあり方も長く議論されています。

…仕組みや制度があれば、ソーシャルビジネスが上手くいくわけではないけれど。

…今ある仕組みを工夫して使ってる人たちがいるのも知ってるけれど。

…それなりにハードルがあることも理解しているけれど。

営利と非営利の境目は軽やかに飛び越えて、必要なサービスを地域ニーズや当事者に合わせて作っていく。

そんな当たり前の振る舞いをする事業者を、支える仕組みが早く出来るといいなぁ、って。

営利と非営利の境目、軽やかに飛び越せる仕組みや環境、欲しいよなぁ、って。

こういうレポートを読んでいると、そんなことを思うのです。

HCTについて、本当は数字も示したいですが、それはまた別の機会に。 
あ、とても素敵なインパクトレポートを出しているので、宜しければご覧下さいね。リンクはこちら 。 
(ウェブサイトでは、About usの下に、social impactという項目がちゃんとある。日本の団体もこうなったらいいな。)

2016年01月22日 | Posted in 過去ブログからの移行記事(2017年3月以前) | | Comments Closed 

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