生態系がまた一つ豊かになった、ということ~日本ベンチャーフィランソロピー基金レポート、振り返り~
日本ベンチャーフィランソロピー基金 支援成果レポート放課後NPOアフタースクール支援事例にみるJVPFの役割と、日本におけるベンチャーフィランソロピーの意味(2017年6月30日)http://www.jvpf.jp/news/
レポート本体はこちらにPDFが掲載されています。
http://www.jvpf.jp/images/JVPF_report_houkago_170630.pdf
一般公開とウェブ掲載にあたり、少しだけ自分なりの振り返りを。
先日書いたこちらのブログもご参照下さい。
◆レポートの目的
このレポートは、
「ベンチャーフィランソロピーの概念や役割、価値」を、
「JVPFによる、NPO法人 放課後NPOアフタースクールへの資金支援・経営支援の実態と成果を分析すること」を通じて、まとめたもの
です。
「放課後NPOアフタースクールの支援事例を題材として、ベンチャーフィランソロピーというものの価値や意味を語る」
という点を意識し執筆しました。
JVPFのミッションは
- 支援・協働先の事業者の成長と課題解決の促進
- 日本におけるベンチャーフィランソロピーの普及・確立
という2点です。
今回のレポートは、
1.の観点にのっとり、
放課後NPOアフタースクールさんの卒業を契機に、支援のプロセスを解きほぐす
ということと、
2.の観点に立脚して、
ベンチャーフィランソロピーの価値や意味づけを、当方なりに行っていく
ということにトライしたということになります。
またこういったレポートを書く場合、語り手としての自分自身をどのくらい前に出すのか、迷うところなのですが、今回は客観的に、当方から見た視点でこの4年間をどう解釈するのか、その視点そのものを期待している、ということでしたので、比較的自らの視点が前に出た語り口になりました。
◆JVPFの特徴
JVPFは日本初の本格的なベンチャーフィランソロピー基金です。
政府資金は入っておらず、民間のイニシアチブにより創設されています。
JVPFの特徴は
- 中長期の思い切った額の資金提供
- ビジネススキルを活用した経営支援
にあります。
◆レポート執筆にあたって立てていた問い
レポートを執筆するにあたって、1か月間、次のような問いを自分の中に立てていました。
- JVPFによる経営支援とは、具体的に何を指しているのか?
- 放課後NPOアフタースクールの成長の理由はどこにあったのか?
- 当初の目標設定に対する達成状況はどうだったのか?
- JVPFというプラットフォームが存在することが、一般的な“プロボノ支援”と比べて、どういう違いを生んだのか。(プロボノパートナー企業3社は外資系企業。自力でプロボノ支援も行っている。では、JVPFという主体が介在することはどういう意味があったのか?そんな意味です。)
- これらを踏まえて、ベンチャーフィランソロピーにはどんな意味や役割があったのか?
他にも書いていく中では数多くの問いが浮かび、それを自分なりに咀嚼しながらの1.5ヶ月でした。
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◆JVPFの価値とは何だったのか
私自身の目から見て、3年3か月(実際にはデューデリジェンス含めると4年)間の支援のはひと言でいうと、「統合的な支援」(Integrated Support)にその特徴があると感じました。
そして、JVPFの最大の価値は「先を見通し、舞台をプロデュースする力」にあったのではないか、と。
◆1.先を見通すということ
支援のプロセスを分析していて強く感じたことは、
- デューデリジェンスの過程で相当程度に、ゴールイメージが明確になっていた
ということと、
- そこに至る手段は相当程度に柔軟であった
ということです。
詳しくはレポートのp22~25あたりをご参照いただければと思うのですが、
「得たいアウトカムやゴールが明確であること」
(そしてそれが支援する側とされる側で共有されていること)
で、途中のプロセスで思いがけないことが起こっても、最初に決めた手段に固執する必要がなかったのだと思いました。
そして、それを可能にした要因は
- 丁寧なデューデリジェンス
- その段階でのコミュニケーション(双方の意思確認も含む)
- 支援側の先を見通す力
- 見通した上で必要な支援リソースをグリップ高く引っ張ってくることが出来る力
- 放課後NPOアフタースクールさん側の柔軟性、“成果を出す”という意思
といったあたりにあるのではないかと感じました。
◆2.「舞台をプロデュースする」ということ。
P41のあたりに、「プロデューサーとしての役割」という言葉が出てきます。
JVPFは
- プロデューサーとして支援すべき存在を発掘し
- 可能な限りのリソースをフル活用して支援先を磨き
- 社会的インパクトを最大化させる
という役割を果たしていること。そして
- この場合の“リソース”は、資金支援と経営支援の双方を指していること
- この両者を組み合わせること=統合的なアプローチである
と記載しました。
プロボノ企業は放課後NPOアフタースクールの支援において、非常に大きな役割を果たしています。それは間違いないことだと感じました。
一方で、「プロボノ」であることの時間的な制約も存在していたはずです。一時的な関わりになったケースも存在していたと思います。
それでもその関わりの価値を最大化できた理由は、「舞台の全体をプロデュースする役割を果たす」JVPFがいたことによる効果は大きかった、と感じました。
この点は、編集後記にも記載をしていますので、そちらもお読みください。
<編集後記から>
今回のレポート執筆にあたり、最も印象的だったのは“プロデューサー”というキーフレーズでした。
映画に例えるなら、作品にすべき題材を見つけ、演者をキャスティングする。
シナリオを準備し、音楽や照明、衣装といった裏方もそろえながら、プロモーションも含めてすべての工程を管理する。
もちろん、その大前提として資金調達能力も必要です。そうした包括的な役割を果たしている存在、それがプロデューサー役であるベンチャーフィランソロピーだと感じました。
◆3.統合的であることの意味
JVPFは思い切った高額助成を複数年に亘り行っています。
経営基盤を支える資金を、資本を投入する感覚で提供し、組織を根底から支える、そんな方法だと理解しました。
これは、経営支援の効果を間違いなく高めると思います。なぜならば、アドバイスを実行できる余力が産まれるわけですから。その意味では本当に価値が高い。実効性も高いと感じます。
こうした環境を維持し、提供出来ることがJVPFの凄さであり、徹底力だと感じます。
一方で、相当程度に恵まれた環境であることも事実です。こうした統合的な環境、通常はまず、生み出しえない。
また相当なコミットメントを行う訳ですから、それに応えられる団体をスクリーニングする必要があるのだろうと感じました。
◆4.“経営にコミットする”ということ
また、「経営にコミットする」というスタンスをどう感じるのか(ポジティブに捉えるのか、否か)という点も、人によってとらえ方が異なるのだろうなとも感じました。
念の為書き添えると、JVPFさん‐放課後NPOアフタースクールさんの場合は、この点丁寧に進められたのだなという印象を持ちました。
経営者の右腕となり、経営に関与するということ。理事会体制を整えるということ。
こうした支援は相当程度に踏み込んだ支援になるわけですから。
こうした「踏み込んだ支援」をすることと、それを“求めている組織”そして“求められている組織”と協働すること。
その点も含めて〝目利き”なわけです。
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◆〝生態系が豊かになった”という実感
JVPFが5年前に登場した時、「ついにここまで!」という感覚を持ちました。外部者の私がそんなことを言うのは極めて変だということを重々理解しつつ、、、失礼を承知で書きますと、非常に嬉しく、そして感慨深かったわけです。本当に嬉しい、凄い!と。
「伴走支援」というキーワードに出会い、その具体的な方策を考えたり、試行錯誤をしていた2000年代後半、
「成果志向の社会貢献活動」というレポートを書き、海外事例を研究していた2010年代前半、
その時の感覚からすると、私にとってはJVPFの誕生は「鮮烈なデビュー」だったわけです。
今回レポートを書いてみて、その思いはまた強くなりましたし、同時にタイトルにもある通り、日本社会におけるソーシャルセクター支援の生態系がまたひとつ豊かになったのだ、と実感しました。
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伴走支援の形は様々です。担い手が増え、プロボノの考え方やスタンスも相当多様になってきたと感じます。
(例えば、SVP東京におけるプロボノ・伴走と、JVPFによるそれは様相が異なります。
自身が会社の社会貢献担当事務局として、あるいは公益信託世田谷まちづくりファンドの一環として、運営を担ってきた伴走支援のプログラムとも異なります。
※この点は、もう少しきちんと分析したいので、また別稿に取りまとめる予定です。)
しかし、やはり自分なりに俯瞰して考えると、やはり何よりの価値は、現場で試行錯誤をする起業家・事業者に最大限の敬意を持ちながら、持ちうる資源を提供し、伴走する仕組みが、また一つソーシャルセクターの中に登場し、結果を出した、という点、そしてその結果として、ソーシャルセクターの生態系が豊かになった、ということだと思うのです。
また長くなってしまいました。ちょっとここまで一区切り。
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レポート公開のタイミングとなった、年次報告会。終了のタイミングで、JVPFの選定委員会やWG、事務局メンバーの皆さんと記念撮影させて頂きました。
レポート執筆の機会を頂いたこと、信頼し任せて頂いたことはもちろんですが、執筆を通じて、ベンチャーフィランソロピーとしての先を見通す力、プロデュースする力量の意味や凄さの一端を垣間見させていただいたことに、改めて感謝です。
頂いた機会と知恵を、しっかり次に繋げていきたいと思います。