トヨタ財団しらべる助成(後編:仮説の磨き方)
さて後編です。後編のテーマは「仮説の磨き方」
*前編はこちら トヨタ財団しらべる助成 研修会 (前半:社会調査の基礎理解 編)https://www.kazetotsubasa.com/2446/
■仮説とは何か
仮説とは、「真偽はともかくとして、検証するために立てるもの」
「真偽はともかくとして」というところがポイントですね。もちろんあまりにも的外れでは困りますが。
当たり前の事ですが、仮説を立てる段階では、仮説構築の素材は限られています。
それでも自分なりの観点を持って挑むもの、それが仮説です。
■仮説を磨くとはどういうことか
では仮説を磨くとはどういうことか。
簡単に言えば、一旦立てた仮説を、新たに得られた示唆を元に繰り返し修正していくこと。
調査者には、柔軟に、素早く、集められた検討素材を活かして行動することが求められます。
*でもこれって、何も調査に限らないこと。事業でも同じだと思っています。その辺りはこちらにも書きました。
「日本政策金融公庫 ソーシャルビジネストピックス」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/social/tokushuu04.html
■作業仮説に落とし込む
作業仮説については、こちらを参照。
仮説 (hypothesis): 研究によって真偽を決定すべき命題
理論仮説 (theoretical —): 理論的なレベルで考えた仮説
作業仮説 (working —): データによって検証可能な仮説 (操作仮説 operational — ともいう)
理論仮説を作業仮説に翻訳する作業を「操作化」(operationalization) という。
つまり、「しらべる助成」の採択者の皆さんに最初に求められていることは、「申請段階で記載した大括りの仮説を、作業仮説に落とし込む行為」だと言えます。
■「捨てられる仮説」
今回の研修では予め「宿題シート」の提出を研修受講生の皆さんにリクエストしていました(任意です)。
宿題には「仮説」を書く欄があったのですが、この欄の記述の精度・充実度は当然ながら様々でして。
採択された案件ばかりですから、もちろん一定のレベルには達しているのですが、誤解を恐れずに言えば、「捨てられない仮説」には留まってしまっているものが多くありました。
「捨てられない仮説」とは、私なりの解釈で言うと、「仮説が間違っていた場合や仮説が反証された場合に、想定に裏切られた事が実感できる仮説」です。
調査を行う際に作業仮説を練らず、「総花的な仮説」や、「焦点が絞られない仮説」のまま始めてしまう。
これは調査を行う上で、最も避けなければならない事だと思います。
総花的な仮説や焦点が絞られないままの仮説だと、自分たちが考えていた事、取り組もうとしていたサービス、作ろうとしていた商品の想定が正しかったのか、振り返り、判断を下すことが難しくなる。
これではせっかくの調査助成の意味がありません。
だから、「誰もが納得する総論賛成型仮説」から、「正しいが間違っているのか判断出来る、精度の高い作業仮説へ」転換する事が求められる。そう考えています。
■捨てられる仮説をどう作るのか?
では「捨てられる仮説」、「裏切られたと実感できる仮説」とは何か。
ポイントばかり「具体的であること」にあります。
ではどうやって具体化していくのか。
それは「分解すること」です。
例えば、属性を分析し、対象者を絞り、属性ごとの数を数える。あるいは推計する。
例えば、発生原因の問題構造を図示し、それぞれの連関を分解する。
解決したい課題の渦中にある人(助けたい人)や協力をして欲しい人(支援者)を徹底的に分解した上で抽象化しまた分解し、自分たちが真正面から向き合うべきひとの人物像を描く。
そんな作業が、「仮説を磨く」という抽象的な表現には込められています。
■演習へ
後半のパートでは上の3点に実際にチャレンジする演習も。
時間が短いながらも、皆さん真剣に「仮説を磨くための作業」に取り組んでいらっしゃいました。
リアリティある質問も頂き、とても良い場になりました。
■さいごに
私自身が「期間が決められた調査」をいくつもやってきて思うこと。
それは、「終わりがない」ということです。
助成期間は半年間と区切られていますが、そるは長くながく続く挑戦の、ある部分を切り取っただけの話。
現実は常に変動し、新しい発見がある。
時代背景が変われば、必要な取り組みは変わる。
取り組んでいる自分自身も事実の受け取り方や考え方が変化していく。
だから死ぬまで(あるいは辞める・手放すことをするまで)終わりはない、ということです。
それはすなわち「わからない」というモヤモヤは永遠に続く、ということです。
そんなことを言うと、身も蓋も無いようですが、「ずっとモヤモヤするものなんだ」と分かっていると、逆に調査も実践も楽になるような気もします。
むしろ過大な資源を投入して、元に戻れなくなる、捨てられなくなる事の方が危険。
これもきっと、事業支援と思想は同じだと感じています。
今回、「しらべる助成」の採択団体は全16団体。
ちなみにトヨタ財団国内助成プログラムは、採択率5.9%となかなかなの難関です。
採択団体の皆さんは、一様に真剣に課題と向き合い、提案を纏めた方々。
つまりはご自身たちの努力と頑張りによって、機会を掴み取った方々だと言えます。
選び取った機会を最大限に活かすために、今回の研修を何かの役に立てて頂ければなと思います。