トヨタ財団しらべる助成 研修会(前半:社会調査の基礎理解 編)
春の空が気持ちが良い一日。
トヨタ財団 「しらべる助成」採択者の皆さま向け研修会で、講義を担当させて頂きました。
ブログでは前編(社会調査の基礎)と後編(仮説を磨く)の2つに分けて、研修会でお伝えした事を共有します。
■「しらべる助成」とは
国内でも老舗の企業財団である「公益財団法人トヨタ財団」。1974年設立の歴史ある助成財団です。
そんなトヨタ財団が今年度新たに開始した、国内助成プログラム「しらべる助成」。
「地域課題の発掘やその解決に必要な調査、および事業戦略の立案など、本格的な事業を実施する前の調査を目的とするプロジェクトへの助成」を目的に設定されました。
(詳細はこちら https://www.toyotafound.or.jp/community/2017/)
このプログラムの意義や位置付けを自分なりに解釈すると、民間公益活動の担い手が、社会課題の解決に取り組む際に
- 課題の所在やその中身を正確に把握すること
- 解決策/打ち手の確度を高めること
を支援するプログラムだと感じています。
■研修会の意図
今回の研修会の意図はこちら。
半年間という短い期間で、いかに課題やニーズ、解決策や打ち手に迫っていくか。
そのためには「仮説を磨く」という作業からは逃げられません。
また限られた時間とリソースで仮説をより良く磨くためには、「調査の精度を高める」ことが必要です。
そこで今回の研修では
- 社会調査の基礎を理解すること
- 精度の高い仮説構築に向けた調査設計の理解
の2点に重点を置いて研修を行いました。
■前半:社会調査の基本理解について
前半では、「社会調査とは何か」という基礎的な知識提供を。
いわゆる「社会調査」とは何を示しているのか。参加者の皆さんと共通理解を持つところから始めました。
研修では、一般論として「用語の整理」や「手法の例示」も行いました。
が、研修参加者の皆さんは「具体的や課題解決に繋げる」ことを目指して助成申請をしていらっしゃいますし、仮説を磨くことに繋がらなければ意味がありません。
また、豊富な資金や人的リソースがあるケースはまれで、むしろ制約条件の中で、どう効果的に調査を進めていくか、という視点も大切になります。
ですので、内容としては、
- 社会調査の手法の全体像を把握すること
- それぞれの手法の特性と気をつけるべきポイント
- 省力化や場合によっては外部化できるポイント
をお伝えしました。
つまり、「必要な手法を必要なタイミングで調査の手法を選択できるように知識を提供すること」に主眼を置いた内容となりました。
■民間公益活動団体にとっての社会調査
そもそも、民間公益活動にとって、調査はどういう意味があるのか。
私自身は、民間公益活動団体にとて、「調査」の意味は2つあると考えています。
一つは「課題を可視化する手段としての調査」。
もう一つは、「人を巻き込む手段としての調査」。
辞書的には、調査とは「ある事象実態や動向究明を目的し物事を調べること」を指します。
でも、事実がわかったうえで、課題解決に繋がらなければ意味がありません。
課題を可視化し、その事実とプロセスを通じて人を巻き込んでいく。その力が民間公益活動団体にとっての調査の価値だと思います。
■失敗あるあると、事前準備のポイント
概念整理や意義の確認、取り組む際のポイントをお話した後には、
- 「量的調査の”失敗あるある”」と、
- 「ヒアリング調査の事前の準備ポイント」
をお伝えしました。
1.「量的調査の”失敗あるある”」
「失敗あるある」では、自分や周囲の経験も含めて躓きポイントと、対応策をご紹介。
調査はもちろん、設計や最後のレポーティングの質が大切です。
しかし自分が今までご支援してきた民間公益活動団体の例では、「やり方がわからない」「知らない」「経験がない」から発生してしまった、単純ミスや遠回りも少なからず存在しました。(もちろん、自分自身、学生時代や研究員時代、いろんな手痛い経験もあります。)
特に量的調査のうち、いわゆる調査票(質問紙)調査は、質問紙を配布した後には後戻りができません。また単純な作業が多くなりがちなので、無駄が多いとそれだけでやる気と体力を奪われます。
貴重な時間とお金を浪費してしまうこと、できれば防ぎたい。ということで、経験を類型化し、どんなところを気を付けるべきなのか、かいつまんでご紹介をしました。
2.「ヒアリング調査の事前の準備ポイント」
「ヒアリング調査の事前ポイント」では、実際の依頼状や質問項目のリストなども投影しつつ、自分が取り組んだ経験で役に立った事前準備の例をご紹介しました。
ヒアリングの対象を絞り、アポイントを入れ、依頼状を作成し、ヒアリング項目を整理して、相手の目の前に座る。
そこに至るまでにどのようなプロセスがあるのか。また相手の目の前に座った時に慌てなくて良いように、どんなステップを踏んでおけばよいのか。
このパートでお伝えしたことは、事実をいかにハンディに、参照しやすくまとめておくか、ということ。
ヒアリング調査は相手との関係上機会が限られることが大半(大概は一発勝負)です。そして人間の記憶を頼りに話を聞く場面が多いため、相手の話をできるだけ遮らず、かつ事実を丁寧に確認していくことがポイントになります。
そのために自分自身が気を付けていることを、経験則としてお話しました。
■調査の成否は事前準備と段取りが決める~ラポールを築きやすい関係性をつくるために。
調査の成否は事前準備と段取りが決める。そう思います。
でも経験がないと、何をどう準備すればいいか、何にどう気をつけるべきなのか、わからない。やる気がから回るばかり。そのギャップを埋めることを意識しながら、研修の前半の時間を使いました。
「誰かの失敗も、振り返って学びに変えれば糧になる」ですね。
そして、もうひとつ。社会調査は結局、調査者と対象者がどういった関係性を築くことができるのか、という点が勝負だと思うのです。
資料収集ひとつとってみても、インタビューひとつとってみても、相手との友好的な関係性がなければ成立しません。ましてや「調査を通じて人を巻き込む」なんて成立しえないわけです。
ただそれは、相手をおもねるということではありません。基本は尊敬と尊重、そして感謝を表現するということ。
研修会では、「最初にお礼、最後もお礼」、と表現しましたが、自分自身が「調査者」として誰かの前に立つ際に気を付けていることでもあります。
なぜならば、ラポールを築くことは、仮説を磨くための材料を得やすくすることにつながるから。そしてそれは結局打ち手の精度を高めることにつながり、課題解決のスピードを上げることになるから。
社会課題の解決のスピードを上げたければ、普通に表れるふるまいですから、当たり前に現れること。なにも、難しく考えることはないのです。
ではでは、続いて後半の「仮説の磨き方」は次の記事で。https://www.kazetotsubasa.com/2470/